というわけで

シナリオネタです。
ただし、今回のは「シナリオを紹介する意味で作った序文」です。
あとで完全版をHPにも載せますね。
できれば今回みたいなSRCシナリオと連動した外伝SSみたいなのを書いていきたいと思います。

あと、いっておきますがこれはSRCシナリオの第0話とは大半が異なります

というわけで以下続きを読む方式使用
  
「おおおおお……」
 
闇の淵。光の果て。
そこで、ありとあらゆる暴虐とありとあらゆる希望があふれだすその場所で。
何かが、震えていた。
「消えてなど、なるものか……」
 
『ソレ』が身じろぎをする。
だが、
 
「ウァァァァァァァ!!!」
 
身じろぎのたびに、その身に幾千の刃を突きたてられたような冷たさと、幾千の祈りを受けるような暖かさが溢れ出す。
染みる。沁みる。凍みる。
 
そこは、何もない場所だった。
あるのは広大無辺な空間。
大きさも広さも、比較物がなければわからない。
『ソレ』はいまや何もないのといっしょで、しかしどこまでも何かがあるようにも思える。
『ソレ』は求めた。
”   ”が欲しい。
”   ”が欲しいと。
それは変わらない思い。
ずっとずっと胸に灯っていた永遠の灯。
だから──
 
 
『ソレ』の隣に現われた『箱舟』が反作用のごとく生み出したものを見て。
『ソレ』は恋焦がれた。
”  ”を求めていた。
”  ”に憧れていた。
だから、だから。
 
本能的に、『ソレ』も己の全てを還元した。
 
それが別れであることも悔やまずに。
 

           BRAVE  BLAZE
           
             EPISODE 0
           
              はじまりの日
              
              
* * * *
 
───8月9日奈良県山間部、夕刻
 
「どうして、人を襲った?」
静かな声で、告げるのは少年だ。
今、少年の前には異形の姿がある。
高さは成長期の少年程度、その胸に一つ顔があり、肩にも二つの口がある。
そしてそれぞれから牙を剥き出しにしているそれは、この世にいてはならぬ「妖怪」あるいは「魔」と呼ばれる。
「あぁん? そりゃぁ、おめぇ肉が美味いからに……決まってるだろうがぁっ!」
答える間にドン、と踏み込み一ついれて高速で突進。
(もちろんてめぇらもひき肉にしてやるよぉっ!)
そんなことを考える彼の行動は甘かった。、
「破邪っ!」
振りぬかれた錫杖を胸の顔にぶちこまれて吹っ飛んだ。
痛みが彼を一瞬支配する。胸の右目の視界がつぶれている。
「て、てんめぇっ」
女が、少年の前に立っていた。
巫女というやつだろうか、どことなく柔らかそうな身体をしている。美味そうだが、今の一撃は許せない。
「あかんわ、勇気、こないなザコに話聞いても無駄や」
「なぁにぃ、この堊魏蚪様をザコ呼ばわりだぁっ?」
たしなめるような顔で言う巫女に、彼は誇らしげに言ってやった。
「300年ほど前にも人間を10人ほど食ってやったんだぜ」
その言葉を節目に、少年のまとった空気が変わったことに、堊魏蚪は気づかなかった。
「そうか」
そういって彼が手にした銅色の剣をビュンと一振りした。。
瞬間、平静だった彼の表情が激昂へと変じた。
「もうわかった、人を食うためだけにこの世界へ来るおまえはもう魔界へも帰さん!」
ピリピリと空気が震えたそこで、ようやく、彼は少年から放たれるそれが、人間のものでないことに気づいた。
そこには、灼熱の炎のような鎧をまとい、長髪を振り乱し、2本の角をもった人間ではない何かが立ちふさがっていた。
「ま、まさか、お前……」
勝てないことを悟った堊魏蚪が、退こうとしたとき、己の足がちぎれていることに気づいた。
先ほど、剣を一振りしたときに既に断たれていたことに、思い当たる前に
「魂だけで地獄へ行って、食い殺した人の魂に詫びてこい!」
姿を変じた少年の大質量にも似た剣圧がぶつけられた。
意識がちぎれるその前に、堊魏蚪は呟く。
「そうか、お前ヤツの子か………」
「! おい、今お前なんと……」
声はもう聞こえなかった。
堊魏蚪と名乗った妖魔を退治した少年は、その身を元の人間の姿へと還す。
「くそっ……」
「仕方あらへんよ、勇気」
少年の肩をぽんと叩く女性につれられるように立ち上がる。
「そうだな……」
「お疲れじゃったな、勇気、京子」
「博士」
岩場の影から事の成り行きを見守っていた老人に二人が振り向く。
「そしてお疲れのところ悪いんじゃが、二人に別々に指令がきておる。勇気はワシとじゃが、京子は向こうでパートナーと合流とのことじゃ」
「コンビは解散、か」
「せやね」
一仕事終えたところにまた指令だというのに、二人は苦もなくそれを受け入れる。
「ここ三ヶ月、楽しかったぜ、京子」
「お互い様、や」
ガツン、と互いの腕を組み合わせたその様子は男女というよりももっと深いところの絆を思わせた。
「さぁて次の仕事はなんだい、博士!」
  
闇の時間、魑魅魍魎の跋扈を食い止める組織がある。
それは、異世界というよりももっと近しいコインの裏表より現われる侵入者を打ち払うものたち。
それが、怪奇警察サイポリス。
そこに弱冠14歳ながら所属し、自分自身の運命を切り開こうとする少年。
鬼塚勇気。
 
* * * *
 
────同日鎌倉高校閉門時
 
タタタ…と走りこむ音は三つ。
それらの音を立てた三人は合流するなり不思議そうな顔をした。二人は制服姿で、一人は道場着。
制服の女性が、先に言葉を発した。
「あれ? 譲くん」
道場着の青年がやってきた制服の二人に声を返した。
「先輩? 兄さん?」
それを受けたのは制服をややラフに着こなした男だった。
「なんだどうした、そんなに焦って駆けこんで」
「それは兄さんたちもだよ」
ふぅ、とそれぞれに一息をつく。
「俺は、なんかこのへんに先輩がいたような気がしたから……」
「ううん、私たちもいまきたところだよ」
「うっ、何してたんだよ、二人でこんな時間まで」
ははん、と『兄』が嘯いた。
「俺たちはちょっと教室で、なぁ」
「教室でちょっと……!!」
「ちょ、ちょっと将臣くん、何いってるのっ」
「先輩、教室で何があったんですかっ!」
語気を荒げた
「え、えと勉強会だけど……悠ちゃんとか、とも子ちゃんとか、眞一郎くんと一緒に」
「え、あ」
クククと制服の男が笑う。
それをみてようやく道場着の男がからかわれたのに気づいた。
「兄さんっ!」
「いや悪ぃ悪ぃ。」
いまだ笑みを残したままで少しも悪びれたふうもなく謝罪する男は、ふと雰囲気を真面目なものにする。
「ま、俺らもこっちで変な影が見えたんでな」
「私はあんまりよく見えなかったけど、悠ちゃんも見えたっていったら将臣くんが飛び出しちゃって」
もう、と女性が頬を膨らませる。
そのあと、きょろきょろと周囲を見回し、
「誰もいないみたいだし、戻ろうよ、将臣くん」
「ああ、そうだな。…っと、ちょっとまってくれ。すぐ戻るからよ」
いって、道場着の男にここに残るよう、女性に見えぬようジェスチャーする。
頷いてみせる男たちに不思議そうに見たあと、
「? じゃ、私先に戻ってるからね? 皆と校門で待ってるから」
といって廊下をまた走り出す。
「……で、兄さん、何さ」
「お前が見たの、ほんとにアイツか?」
首を横に振った。
「先輩だとは思うけど、着てるものが全然違ったよ。ただ、凄く悲しそうだった」
「そうか」
「……じゃ、俺もそろそろ帰るとこだったから部室に戻るよ」
そういって、背を向けた少年に、声が届く。
「なぁ譲。お前のみたそいつがもし……あいつじゃなくても、お前はこうしてたと思うか?」
「困ってる人見たからって、道場からここまで駆け寄るほど、俺はいい子ぶっちゃいないよ」
「お前らしいよな、あいつの前ではいいこぶって」
「兄さんならどうなのさ」
「俺なら、駆け寄る。俺は見えちゃいなかったしな」
あっけらかんといったその声に、道場着の背中が震えた。
「……兄さんは、普段悪い子ぶってんだね」
「ああん、普段からやってたら疲れっからな。
 けどよ、譲。お前のその一途なとこ、結構好きだぜ、俺」
「からかいやすいから、だろ!」
肩をいからせて、走り去っていくその影に、制服の男が呟く。
「……ま、それもあるか」
ふと顔をあげる。空には夏の大三角形が浮かんでいた。
 
廊下を走る。
走る姿には音もついてきた。しかしその音も雨音でかき消される。
勉強会で残ってた皆のいる教室まではあと少し、そのとき不意に気配を感じて窓の向こうを見た。
二階のこの場所からは、渡り廊下が見える。男たちはもう別れたらしい。
だから、誰もいない。
そのまま視線は自然と学校の敷地内の大岩を超えてその向こう、小さな社をとらえた。
「……!?」
そこに、銀髪の少女が立っているように見えた。
雨の中、あんなところに誰がいるのだろう。
覗き込む視線が、不意に別のものに隠された。
それは、笑う女のようで、あるいは、ウェーブヘアの男のような、何か。
思わずたたらを踏んで窓から遠ざかる。
「……い、今の、なに…?」
「おい、どうした?」
追いついてきた幼馴染に、話そうともするが、言葉が上手くでてこない。
「ま、将臣くん、向こうに何か見える?? ほら、あの社のところ……」
「何か見えたのか!」
すかさず外を見るが、雨に紛れて何も見えなかったようだ。
舌打ちながら、こちらを見て、
「チッ、何も見えやしねぇ……、まぁ、お前が無事ならそれでいいか」
「将臣くん…」
「なんだよ、ああ、見えないのに舌打ちしたわけか? 別になんでもねぇよ」
何か事情があるのはわかったが、そこに今更踏み込もうとも思わなかった。それになにより、
「……あ、あのさ、将臣くん」
「なんだぁ、どうした?」
恥ずかしい。
「お、おんぶ……」
「あ?」
「こ、腰が抜けちゃったみたいなの……」
からかわれるかと思った。
けれど、
「お、マジかよ、ほら」
素直に、膝立ちになってこちらに背を向けてきた。
「ありがと。んしょ」
「ったく、高校生になってお化けみて腰抜かすかぁ?」
「うっ……〜〜〜」
「冗談だよ、悪いな。お前、真剣なんだもんな」
そういって、幼馴染が立ち上がると、視界が高くなる。
「……ね、将臣くん」
「なんだ?」
「私にもし何かあったら、将臣くん助けにきてくれるよね?」
「さぁな、手が空いてたらいってやるよ」
「ナニそれ、優しいんだかわかんない」
「生憎俺の手は二つしかないんでね。二つ使ったてたら後回しだ」
でも、空いてたら。
「いの一番に助けにいってやるよ。当たり前だろ」
 
鎌倉の地、かつて将軍が誕生したその地に、一つのねじれがある。
そのことを、いまだその地のものは知らない。
ただ、そのねじれの中で、運命に翻弄されることをこの日、彼女たちは確定づけられた。
明るくはっきりとした性格で、幼馴染とその弟をひきつける少女。
こののち、選ばれる運命の神子。
春日望美。
 
 
* * * * 
 
やがて運命のときがくる。
彼らの先に暗雲立ち込めんとする。
けれど、未来に世界は告げる。
この地には必ず助けがあると。
されど、過去に時間は謳う。
いかなる助けも、届かないときがあることを。
それでも、遙かなる彼方へ。
闇を払う勇気の灯火を。
 
 
そして、これからのほんのひと時の間、彼らに平穏あらんことを。